「ストーナー」

2014年12月31日にSNSに書いた感想を転載。
超絶ネタバレです。
以下。

ストーナー」の感想が書ききれない。
舞台は1910年、19歳のストーナーが入学し、1956年に亡くなるまでたち続けたミズーリ大学が主となります。
貧しい農家の一人息子ストーナーが農業を学ぶ為に入学した大学で文学と出会い以後彼の世界の全てになる教職の道に進む事から物語は始まる。
君は文学に恋をしたんだ。と彼の師は言う。非常に朴訥とした青年で、図書館と学校のみで満たされていたけれど、大人になり親友を得て職に就き一目惚れの相手と結婚し子供を持つ。
けれど親友の一人は戦死、結婚生活は新婚旅行から帰って来た時点で失敗だったと、順風満帆とは行かない。
その後も上がったり下がったり、職務上の諍いがあり、理不尽に引き裂かれた激しい恋もする。娘は鬱屈し、学生ながら妊娠し結婚する。
夫婦は愛し合わない。けれど、全てを捨ててどうするの。と、追い詰められた恋人同士は答えを出す。
人生は儘ならない。ただ良く生きたいだけでも、心から愛し合えた者同士でも、ただそれだけでは生きて行く理由になかなか足らない。
どうしても関わり合いや信念、何よりそこでするべき事があって、そこで生きて行く。そして別れたり離れたりしてそれぞれに生きていく。
理不尽を抱えて、不幸を抱えて、程々に生きて行く。
と、そんな風に終わると思ったら違うの。ストーナーが死に際に思う数々の思い出を読んで欲しい。

ストーナーは極端で潔癖で妄信的な奥さんとの新婚旅行での失敗以来、結婚が失敗だったとし、ずっと不幸な結婚生活をしていた。彼の家庭には一切幸せが無かった。
彼は自分の最期に人生を振り返り、不倫の恋をした彼女の名前を声に出して呼んだけれど、最期に付き添う奥さんの元で「イーディスをもっと愛していれば」と思うんだよ。イーディスが奥さん。若い恋は知識や経験がなく妻を理解出来なかったと、愛せなかった自分を悔いる。
この心に至るまで、私は成長できるだろうか。
因みに恋人は彼と同じ文学の世界に生きる教職者。
若い内だと、まだ狭い世間の中で外見の好ましさや若さから来る情熱で結婚に結びつく事も多々あるかと思う。
けれど成熟して自己を持ち以前より広い世界に生き始めると、以前とは違う視点での恋をしてしまう事がある。世界の共有、知識の共有、興味の共有。
けれど只中にいる身としては、「もっと早く出会えていたら。」と思ってしまう事でしょう。それは、その時だったからこそ出会えた相手なんだ。とストーナー読んで思った。
以前、私は「結婚なんて出会った者順、早いもの勝ち」なんて言っていたけど、全然違った。
暖かい幸せな家庭が欲しいなら、愛そうとしなきゃ。その愛し方が分から四苦八苦するんだけどね。
だから、暖かい家庭なんてなかなか難しいのかもしれない。それもだいたい平凡な事。
ストーナーは2度自分の人生に問いかける。「何を期待したんだ?」って。

また恋愛に終始したけれど、これはウィリアム・ストーナーの一生の物語。
人の一生を丁寧になぞる事は私たちが知る事のきっかけになる。
1965年にアメリカで刊行されたこの本は、一部の愛好家以外には名も知られず埋もれて行く筈だったが、フランスで翻訳された所一気にヨーロッパでベストセラーとなったそう。
アメリカ的ではない、地味で平凡過ぎる物語。けれどこんなに共感を持ちしっくり来る本は読んだ事がない。なんの違和感もなく、私はストーナーが愛しくて堪らなかった。全ての登場人物が確かにそこにいた事が描かれている。
ストーナー氏はこの本を私に教えてくれた人に似ている。

この本の白いカバーを外すと赤い装丁がされている理由を知ると、感激で身震いしちゃうよ。

はー長くなった。読んでくれた方いたらありがと!ネタバレめっちゃしてるけど、手にとって好ましければ是非!
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